『ないものねだりの君に光の花束を』オーディブル感想|脇役の夜に

自分は誰かの物語の脇役でしかないと思ってしまう夜

教室には、いるだけで空気が変わる人がいる。その人が笑えば周りも笑い、その人が話せばみんなが振り向く。自分はその輪の外側で、聞こえてくる声に相づちを打つくらいがちょうどいいと思っている。

厄介なのは、自分を「脇役」だと決めてしまうと、それがいつのまにか楽になることだ。期待しなければ、がっかりもしない。眩しい人とは最初から距離をとっておけば、比べて落ち込むこともない。ただその分、相手が本当はどんな人なのかを知る機会も、自分から手放している。誰に話しても「そんなことないよ」と言われて終わる。そう言われても、自分の中の配役は変わらない。

汐見夏衛の『ないものねだりの君に光の花束を』は、自分を永遠の脇役だと思っている高校生と、誰もが認める主人公のような同級生の話だ。聴き終えても、自分が急に主役になれるわけではない。ただ、眩しく見えていた相手にも、外からは見えない顔があったのだと知る。脇役と主人公という分け方そのものが、少し揺らぐ。

全体で9時間20分。今夜必要なのは、二人が一緒に図書委員を務めることになる最初の30分だけでいい。あとは毎晩少しずつで構わない。

目次

どんな話か

何をやっても平凡で、自分を〈永遠の脇役〉だと思っている高校生の影子。同じクラスの真昼は、世間を賑わすアイドルで、勉強も性格も完璧な人気者だ。住む世界の違う彼と距離をとりたい影子だったが、一緒に図書委員を務めることになり、誰も知らない彼の一面に触れていく。

声で聴くとどう変わるか

ナレーターは白川聖。影子の語りは、自分を一段低いところに置いた、控えめな温度で進む。真昼の台詞は、教室で人に囲まれているときと、図書室で影子と二人になったときとで、声の張りがわずかに違う。文字で読むと、その差は地の文の説明として受け取ることになる。声で聴くと、説明される前に耳が先に気づく。完璧に見える人の声が、ふと力を抜く瞬間がある。その一瞬が、影子と同じ目線で彼を見るきっかけになる。

9時間20分は、通勤の往復1時間なら9日ほど。就寝前に30分ずつなら、3週間弱で聴き終える。図書室という静かな場所が舞台の中心なので、照明を落とした部屋で聴くと、二人の会話の小ささがよく合う。文庫版限定のアフターストーリーも収録されていて、本編を聴き終えたあとにもう一晩分の楽しみが残る。

図書室で二人きりになった場面で引き込まれた

聴き手として手が止まったのは、図書室のカウンターで二人きりになる場面だった。教室では誰にでも同じ笑顔を向けていた真昼が、そこでは少しだけ口数が減る。影子はそれを、自分が退屈な相手だからだと受け取る。けれど聴き手には、そうではないことが少しずつ分かってくる。

影子はずっと、自分の側からしか真昼を見ていない。眩しいから、目を細めてしか見られない。その思い込みが一枚ずつはがれていく過程が、この作品のいちばんの聴きどころだ。真昼が何を抱えているのかは、ここには書かない。結末も書かない。影子と同じ速さで、少しずつ知っていってほしい。

いま聴くなら『ないものねだりの君に光の花束を』から。影子の最初の独白で、自分の中の配役に思い当たるはずだ。

こんな人に向いている

  • 自分は誰かの物語の脇役だと、どこかで思っている
  • 眩しい相手ほど、自分から距離をとってしまう
  • 相手の知らなかった一面を、少しずつ知っていく恋愛小説が好き
  • 本編のあとに、二人のその後も少しだけ聴きたい

向いていないのは、大人の恋愛を聴きたい人。舞台は高校の教室と図書室で、恋はゆっくりとしか進まない。結末も胸に残る種類のものなので、今夜は軽く笑って眠りたいという日には向かない。

近い気分の一冊

同じ汐見夏衛の作品なら、『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』も近い。あちらは優等生を演じ続けてきた高校生が、隣の席の相手にだけ素の顔を見せられるようになる話で、こちらは主人公のように見える同級生の、誰も知らない顔に、脇役のつもりの少女が触れていく話だ。どちらも、教室で見えている顔がその人のすべてではないと気づかせてくれる。『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』オーディブル感想

今夜から聴くには

作品ページを開いたら、再生ボタンのまわりの表示を見てほしい。「聴き放題で聴く」と出ていれば、その場で再生できる。対象は入れ替わるので、購入の前に表示だけを確かめてほしい。『ないものねだりの君に光の花束を』のページを開く

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今夜は、教室の輪の外側にいた頃の自分を少しだけ思い出しながら、影子の最初の独白を聴いてほしい。

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