『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』オーディブル感想

本当の自分を出したら嫌われる気がして、ずっと演じてきた夜

誰からも「いい人」だと思われている。頼まれれば断らないし、余計なことは言わない。そうしていれば波風は立たないと分かっているから、ずっとそのままでいる。学校でも職場でも、その役割を一度引き受けてしまうと、簡単には降りられない。

厄介なのは、その「いい人」を演じ続けるほど、本当の自分を出すタイミングを失っていくことだ。今さら素を出せば、これまでの自分が嘘だったことになる気がする。誰にも本音を預けられないまま、自分の機嫌だけを自分でとる日々が続いていく。愚痴をこぼせる相手がいないぶん、しんどさに気づいてもらえることすらない。

汐見夏衛の『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』を聴くと、その演技をやめてもいいのだと思えてくる。誰からも信頼される優等生の茜は、隣の席の青磁にだけ「嫌いだ」と言われてしまう。歯に衣着せない青磁の存在が、茜が演じることをやめる最初のきっかけになっていく。

10時間19分。今夜は、二人が言葉を交わし始める最初の数章だけでいい。

目次

どんな話か

高校2年の茜は、誰からも信頼される優等生。しかし、隣の席の青磁にだけは「嫌いだ」と言われてしまう。自分の気持ちをはっきり言う青磁が苦手だった茜だが、彼女を救ってくれたのはそんな彼だった。「言いたいことがあるなら言っていいんだ。俺が聞いててやる」という青磁の一言をきっかけに、茜は少しずつ心を開いていく。実は茜には、優等生を演じ続ける理由があり、彼もまた、ある秘密を抱えていた。

声で聴くとどう変わるか

ナレーターは広瀬有香。誰に対しても均一な話し方を崩さない茜の声と、思ったことをそのまま口にする青磁の声の落差が、聴いているだけではっきり伝わってくる。文字で読むと同じトーンに見えがちな茜の台詞が、声になると「演技」の部分と「素」の部分の境目が、わずかな呼吸の変化として聴き取れる。

10時間19分。通勤の往復なら10日ほど、週末にまとめて聴くなら2日で聴き終えられる長さだ。一話ごとに視点や出来事の区切りがはっきりしているので、夜ごとに少しずつ進めても筋を見失いにくい。文庫版だけに収録されたオリジナルストーリーも収録されているので、原作を読んだことがある人も新しい発見がある。

秘密が明かされていく場面

手が止まったのは、茜が青磁に向かって、初めて本音に近い言葉をこぼす場面だった。優等生の仮面が一瞬だけ外れる瞬間の、声の震え方が印象に残る。取り繕う言葉が追いつかず、素のままの声が出てしまう瞬間を、ナレーションが丁寧にすくい取っている。

青磁が抱えている秘密が少しずつ明かされていく後半の展開も、聴き手の予想を静かに裏切ってくる。互いに秘密を抱えたまま近づいていく二人の距離感が、丁寧に描かれている。どちらかが一方的に相手を救う話ではなく、支え合う形に少しずつ変わっていく過程こそが、この作品の核になっている。

いま聴くなら『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』から。二人が言葉を交わし始める最初の場面だけでも、この関係の緊張感が伝わってくる。

こんな人に向いている

  • 周りからの評価を守るために、本音を出せずにいる
  • 誰にでもいい顔をすることに、そろそろ疲れている
  • タイトルの意味が明かされる瞬間を味わいたい
  • 高校生の恋愛小説を、今の自分に重ねて聴きたい
  • 本音を言い合える相手が、今の自分にいるかを考え直したい

向いていないのは、テンポの速い展開を求める人。この作品は二人の関係が少しずつ変わっていく過程が中心なので、急な展開を期待すると前半は物足りなく感じるかもしれない。映像化もされているが、内面の変化を丁寧に追う分だけ、原作の方が受け取れる情報量は多い。

近い気分の一冊

誰かの前でだけ仮面を外せるようになるという意味では、高山真の『エゴイスト』も近い。あちらは同性愛者である自分を隠してきた男性が、血のつながりのない相手の前でだけ本当の自分でいられるようになる話で、こちらは優等生を演じ続けてきた高校生が、隣の席の相手にだけ素の自分を見せられるようになる話だ。年齢も舞台も違うが、誰かにだけ見せられる自分があるという構造は重なる。『エゴイスト』オーディブル感想

今夜から聴くには

作品ページを開いたときに何が見えるかを確かめてほしい。「聴き放題で聴く」と出ていればその場で再生できる。対象は入れ替わるので、購入の前に表示だけを見てほしい。『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』のページを開く

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今夜は、自分がどこまで素の顔でいられているかを、少しだけ振り返りながら再生してほしい。

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コメント一覧 (1件)

  • […] 誰にも見せていない自分を抱えたまま、演じ続けてきたという意味では、汐見夏衛の『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』も近い。あちらは優等生を演じ続けてきた高校生が、隣の席の相手にだけ素の自分を見せられるようになる話で、こちらは同性愛者である自分を隠してきた男性が、血のつながりのない相手の前でだけ本当の自分でいられるようになる話だ。年齢も舞台も違うが、誰かの前でだけ仮面を外せるようになる過程は重なる。『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』オーディブル感想 […]

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