『最後から二番目の恋』オーディブル感想|ひとりの老後を考える夜に

このまま一人で年を重ねていくのかと、ふと考えてしまう夜

仕事はそれなりに回っている。友人もいるし、休日の過ごし方にも困らない。それでも夜、ふと老後の部屋の間取りを考えている自分に気づく。

厄介なのは、それが悩みと呼ぶほどのものではないことだ。誰かに話せば「まだ若いよ」か「一人のほうが気楽でいいじゃない」で終わる。どちらも間違ってはいない。けれど本当に言いたかったのは、恋愛をもう一度始めたいのか、もう始めなくていいのか、自分でも決めかねているということだ。決めないまま年だけが進んでいく。

ドラマの脚本を小説にした『最後から二番目の恋』は、その決めかねている状態を、笑いながら聴かせてくれる。45歳と50歳の男女が、言い合いをしながら少しずつ互いの生活に入り込んでいく。聴き終えても、この先一人でいるかどうかの答えは出ない。ただ、この年齢から始まる関係もあるのだと、肩の力が抜ける。

全体で10時間26分。今夜必要なのは、千明が古民家の下見に鎌倉へ出かけるところまでの30分だけでいい。そこで二人の家族と出会う。

目次

どんな話か

45歳、独身のテレビドラマプロデューサー・吉野千明は、老後のことを考えて鎌倉の古民家に住もうと思い立つ。下見に訪れた先で出会ったのが、隣に住む長倉家の人々だ。50歳の市役所職員・長倉和平は、弟妹の親代わりを務めながら、娘と二人で暮らしている。

声で聴くとどう変わるか

ナレーターは岩崎愛。この作品のいちばんの魅力は、千明と和平の掛け合いにある。言い返せば言い返され、どちらも引かない。その応酬を、岩崎愛は台詞の間を詰めすぎずに読む。文字で読むと、会話は目で一気に追えてしまう。声で聴くと、一言ごとに相手が言葉を探す、ほんの短い間が残る。その間に、大人同士の照れや遠慮が聞こえてくる。

もとはテレビドラマなので、場面の切り替わりがはっきりしている。一話ぶんの区切りで止めても、話の流れを見失いにくい。就寝前に30分ずつなら3週間ほど、通勤の往復1時間なら10日ほどで聴き終える。スペシャルドラマ「2012秋」の物語も収録されていて、本編のあとにもう少しだけ鎌倉に残れる。

年上の二人が言い合う場面で引き込まれた

聴き手として手が止まったのは、千明と和平が、生活の小さなことで言い合う場面だった。きっかけは本当にささいなことだ。それなのに二人とも、自分がどう生きてきたかを背負ったまま言い返す。45年分と50年分の言い分がぶつかるので、どちらの言うことにも筋が通っている。

笑って聴いているうちに、ふと気づく。この二人は、相手に気に入られようとしていない。若い頃の恋のように、自分をよく見せる努力をしていない。そのぶん、言い合いのあとに残るものが、妙に正直だ。二人の関係がこの先どうなるのかは、ここには書かない。言い合いが少しずつ別のものに変わっていく過程を、そのまま聴いてほしい。

いま聴くなら『最後から二番目の恋』から。千明が鎌倉に着いた最初の場面で、この作品の温度が分かる。

こんな人に向いている

  • このまま一人で年を重ねていくのかと、ときどき考える
  • 恋愛を始めたいのか、もう始めなくていいのか、自分でも決めかねている
  • 重い話より、笑いながら少しだけ胸が痛む話を聴きたい
  • ドラマを観た人も、観ていない人も、最初から鎌倉の二人を知りたい

向いていないのは、若い二人の一途な恋を聴きたい人。主役は40代と50代で、恋はいつも生活や家族の話と一緒に進む。胸が高鳴る展開より、会話の可笑しさで聴かせる作品だ。

近い気分の一冊

40歳を前にした女性が、ひとりの暮らしの中で自分の幸福を選び直していく話なら、千早茜の『マリエ』も近い。あちらは離婚をきっかけにひとりの時間を取り戻していく話で、こちらはひとりのまま年を重ねるつもりだった人が、隣の家族に巻き込まれていく話だ。どちらも、年齢を理由に人生の選び直しを諦めなくていいと思わせてくれる。『マリエ』オーディブル感想

今夜から聴くには

作品ページを開いたら、再生ボタンのまわりの表示を見てほしい。「聴き放題で聴く」と出ていれば、その場で再生できる。対象は入れ替わるので、購入の前に表示だけを確かめてほしい。続編の『続・最後から二番目の恋』『続・続・最後から二番目の恋』もAudibleにある。『最後から二番目の恋』のページを開く

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今夜は、老後の間取りを考えるのを少しだけやめて、千明が古民家の下見に鎌倉へ出かける最初の30分を聴いてほしい。

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