『風読みの彼女』オーディブル感想|隠せない気持ちの夜に

自分でも気づいていない気持ちを、誰かに先に見抜かれてしまいそうな夜

誰かを好きになったとき、自分の気持ちより先に、相手のほうがその気持ちに気づいてしまっている気がすることがある。隠しているつもりの表情や声の温度は、思っているより簡単に相手へ伝わってしまうものだ。

厄介なのは、気づかれること自体より、気づかれた後にどう振る舞えばいいか分からなくなることだ。知らないふりを続けるべきか、認めてしまうべきか。答えが出ないまま、ただ相手の前で不自然になっていく。

宇山佳佑の『風読みの彼女』を聴くと、隠しきれない気持ちというものの正体が、少しだけ見えてくる。仕事を探していた青年・帆高は、ガラス雑貨専門店「風読堂」で、”風の記憶”を読む力を持つ店主・風架と出会う。誰かの本当の気持ちを読み取ってしまう風架の前で、帆高自身の気持ちも例外ではいられなくなる。聴き終えても、気持ちを隠す方法が分かるようになるわけではない。それでも、隠しきれなかったことを悪いことだと思わなくてよくなる。

11時間37分あるが、帆高が風読堂のアシスタント募集に応募するところまでなら、今夜の30分で聴ける。

目次

どんな話か

横須賀で暮らす22歳の野々村帆高は、職を探すうちに偶然、ガラス雑貨専門店「風読堂」のアシスタント募集を見つける。店主の級長戸辺風架には”風の記憶”を読むという秘密の力があり、悩みを抱えた依頼人たちがひそかに訪れていた。帆高はその力に振り回されながら、次第に風架自身に惹かれていく。

声で聴くとどう変わるか

ナレーターは古屋亜南。帆高の一人称で進む物語なので、風架をはじめとする登場人物たちの言葉は、すべて帆高というフィルターを通して聴くことになる。声の芝居がつくる場の空気が、文字で読むより先に、帆高の動揺や戸惑いを伝えてくる。

Audible Studios制作の音声オリジナル作品で、”風”という目に見えないものを扱う物語だからこそ、音でその気配を表現する朗読との相性がいい。ガラス雑貨店という舞台の静けさも、声の間の取り方でよく伝わってくる。

11時間37分。一日30分なら1ヶ月弱、通勤の往復なら3週間ほど。序盤は風読堂での仕事に慣れていく時間なので、無理なく聴き進められる。

どの場面で引き込まれたか

手が止まったのは、風架が誰かの”風の記憶”を読み取る場面で、帆高が「自分の記憶も読まれているのではないか」と気づく瞬間だ。恋愛感情というものが、言葉にする前から相手に見えてしまう怖さと落ち着かなさが、声の間だけでよく伝わってくる。

この作品がうまいのは、風架の力を都合のいい魔法として扱わないところだ。誰かの気持ちが読めることは、必ずしも救いにはならない。むしろ隠しておきたかったものまで表に出てしまう痛みとして描かれている。

いま聴くなら『風読みの彼女』から。帆高が風読堂の扉を開けるところまでで、この物語の空気が分かる。

こんな人に向いている

  • 好きな気持ちを、相手より先に自分で認められずにいる
  • ファンタジーの設定を通して、等身大の恋愛の怖さを聴きたい
  • 一人称の語りで、感情の動きを丁寧に追いたい

向いていないのは、ファンタジー要素を添え物程度に期待する人。”風読み”の力は物語の中心に深く関わってくるため、現実的な恋愛描写だけを求めると、設定の比重に驚くかもしれない。

近い気分の一冊

言葉にする前の気持ちが相手に伝わってしまうという意味では、新海誠の『小説 言の葉の庭』も近い。あちらは雨の日だけ会う二人が名乗り合わないまま気持ちを重ねていく話で、こちらは風の記憶を読む力によって気持ちが先に見抜かれてしまう話だ。気持ちを隠す猶予がある片思いと、隠す猶予そのものがない片思い。並べて聴くと、隠しきれなさの種類の違いが分かる。『小説 言の葉の庭』オーディブル感想

今夜の気分がまだ定まらないなら、オーディブルで聴ける恋愛小説おすすめ6選 から入ってほしい。気分から逆に引ける形で並べてある。

今夜から聴くには

作品ページを開くと、いま聴き放題の対象なら「聴き放題で聴く」と表示される。その場合は追加の支払いなしでそのまま再生できる。対象は入れ替わるので、表示だけ見てほしい。『風読みの彼女』のページを開く

Audible を使うのが初めてなら、最初の30日間は無料で試せる(対象は執筆時点)。Audible の無料体験を見る

今夜は帆高が風読堂の扉を開けるところまででいい。そこから先、風架の秘密にどう向き合うのかが気になってくる。

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