自分が死んだとき、泣いてくれる人はいるのだろうか。大げさだと分かっているのに、夜になるとそんなことを考えてしまう。毎日は問題なく回っているし、困っているわけでもない。ただ、誰かと深く関わった記憶が、思い出せるほど残っていない。
この気持ちは、人に話すと「考えすぎ」で片付けられる。でも本人にとっては、考えすぎではなく、事実の確認に近い。寂しいのとも少し違う。人と深く関われない自分の仕組みが、ずっと変わらないのではという不安だ。名前がないから、対処のしようもない。
三秋縋の『恋する寄生虫』は、その不安を笑わずに、最後まで真面目に扱う恋愛小説だ。聴き終えても、人との距離の取りにくさが消えるわけではない。ただ、そのままの自分で誰かと並んで座れる場面が、確かにあり得るのだと、耳で納得できる。慰めすぎず、突き放しすぎず、ちょうどいい温度で終わる。
再生時間は8時間17分。今夜必要なのは最初の30分だけ。二人が出会うところまで聴けば、この作品の声の距離感は分かる。通勤の往復なら5日ほどで聴き終えられる。
どんな話か
失業中の青年・高坂は、人との接触を極端に避けて暮らしている。ある日、不登校の少女・佐薙と出会い、二人は社会に戻るための練習を一緒に始める。噛み合わないはずの二人は、少しずつ惹かれ合っていく。
声で聴くとどう変わるか
朗読は白川周作。高坂の一人称で進む場面が多く、語りの声が一貫して低めに抑えられている。感情を大きく揺らさないので、高坂の用心深さがそのまま耳に入ってくる。
文字で読むと、高坂の理屈っぽい独白が少し硬く感じられる人もいる。声で聴くと、その硬さが「身を守る癖」として自然に響く。佐薙の台詞に切り替わると、声の温度がわずかに変わり、二人の間の空気が分かる。会話の間が丁寧に取られているので、噛み合わなさそのものが、聴いていて心地よい。
8時間17分は、通勤の往復で5日ほど。就寝前に少しずつ聴くなら、一週間から十日が目安になる。静かな作品なので、家事をしながらでも筋は追えるが、二人が打ち解けていく場面は、手を止めて聴きたい。
二人の会話に、再生を止めなかった
聴き手として引き込まれたのは、二人が「できないこと」を隠さずに話し始める序盤の場面だった。苦手なことを、苦手だと言える相手がいる。それだけで会話の速度が変わる。大きな事件は起きていないのに、静かな緊張感が続く。
作品紹介にある「操り人形の恋」が何を指すのかは、ここには書かない。ただ、その言葉を知ったうえで聴くと、序盤の何気ない会話が別の意味を持って聞こえてくる。先に整理しすぎず、まず二人の声に付き合ってみてほしい。
いま聴くなら『恋する寄生虫』から。最初の数分で、高坂の語りの温度が分かる。
登場人物が多くないので、耳だけでも混乱しない。誰が話しているのか迷う場面がほとんどなく、疲れた夜でも、会話のやりとりに集中して聴いていられる。
こんな人に向いている
- 人と深く関われない自分に、うっすら引け目を感じている
- 明るい励ましより、静かな共感のほうが入ってくる
- 設定に少しひねりのある恋愛小説を聴いてみたい
向いていないのは、王道の甘い恋を求める夜。この作品の恋は、どこかいびつなままで進む。
ただ、そのいびつさが、完璧に整った恋愛に疲れた人にはちょうどいい。変わらないものは変わらないまま、それでも隣に座れる、という種類の結末だ。
近い気分の一冊
誰とも話していない孤独を描く話なら、川上未映子の『すべて真夜中の恋人たち』も近い。あちらは言葉にならない静けさを中心に置き、こちらは不器用な二人が会話で距離を縮めていく。孤独の中に誰かが入ってくる瞬間を描く点で、どちらも同じ場所に立っている。『すべて真夜中の恋人たち』オーディブル感想
喪失のあとで、一冊の本に残された言葉から誰かにつながっていく話なら、森沢明夫の『きらきら眼鏡』も近い。毎晩少しずつ付き合える15時間8分だ。『きらきら眼鏡』オーディブル感想
今夜から聴くには
作品ページを開くと、いま聴き放題の対象なら「聴き放題で聴く」と表示される。その場合は追加の支払いなしでそのまま再生できる。対象は入れ替わるので、表示だけ見てほしい。『恋する寄生虫』のページを開く
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今夜は、二人が最初に言葉を交わすところまででいい。部屋を暗くして、低い声に耳を預けてみてほしい。

コメント
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[…] 一人きりの生活に、思いがけず誰かが入ってくる話なら、三秋縋の『恋する寄生虫』も近い。あちらは人と関われない二人が会話で距離を縮め、こちらは一冊の本に残された言葉が二人をつなぐ。孤独の中で、他人の存在を少しずつ受け入れていく過程は重なっている。『恋する寄生虫』オーディブル感想 […]