好きな人に何かしてあげたいと思う。けれど、その気持ちが相手の重荷になるのではないかと考えて、手が止まる。差し出しかけた言葉を飲み込んで、結局いつもと同じ距離に戻ってしまう。
厄介なのは、踏み出さない理由が「相手のため」の形をしていることだ。自分が傷つくのが怖いだけなら、勇気を出せばいい。でも相手を傷つけるかもしれないと思うと、勇気を出すこと自体が身勝手に思えてくる。誰に相談しても「気にしすぎ」と言われて終わり、その迷いは片付かない。
宇山佳佑の『恋に焦がれたブルー』は、その迷いを、目に見える痛みとして描いてしまった恋の話だ。聴き終えても、好きになることの怖さが消えるわけではない。ただ、怖いまま誰かを想い続けることにも意味があると思えるようになる。
再生時間は17時間8分。かなり長いが、今夜必要なのは最初の30分だけでいい。歩橙が青緒に靴を贈ろうと思い立つところまで聴けば、この恋の始まり方が分かる。
どんな話か
靴職人を目指す高校生の歩橙は、いつもボロボロのローファーを履き、誰とも笑わない同級生の青緒に恋をする。手作りの靴を贈ろうとする歩橙のまっすぐな想いに、青緒も少しずつ惹かれていく。しかし彼女は、彼を愛おしく思う気持ちが身体に痛みを与える、不思議な病を発症してしまう。
声で聴くとどう変わるか
朗読は広瀬竜一。同じ著者の『この恋は世界でいちばん美しい雨』でも語りを務めている。声を張らずに物語を運ぶので、歩橙のまっすぐさが押しつけがましく聴こえない。一途な少年の言葉が、照れくさいまま素直に耳に入ってくる。
文字で読むと、青緒の痛みは設定として理解して先へ進みやすい。声で聴くと、優しい言葉が交わされるたびに、その裏で何かが起きていると分かる間が生まれる。幸せな場面ほど聴き手が身構える。この緊張は、耳で聴くからこそ長く続く。
この物語では、靴を作ることがそのまま想いを伝えることになっている。声で聴くと、手を動かす場面の静けさが、言葉にしない告白のように聴こえる。手を動かす時間が、そのまま誰かを想う時間になっていく。
17時間8分は、通勤の往復で1時間ずつなら17日ほど。就寝前に30分ずつなら、ひと月あまりかけて聴くことになる。急がずに、靴が一足できあがるくらいの速さで進めたい。
靴を贈ろうと決める場面で、手が止まった
聴き手として手が止まったのは、歩橙が青緒の足元に目を留め、彼女のために靴を作ろうと決めるところだった。好きだと伝えるより先に、相手の足に合う一足を考える。その不器用な順番に、この少年の想いの形がよく出ている。
その想いがやがて青緒をどう追い詰めていくのか、結末はここには書かない。ただ、相手を想う気持ちと、相手を傷つける気持ちが同じものになってしまう苦しさは、最後まで手加減なく描かれる。
いま聴くなら『恋に焦がれたブルー』から。歩橙が青緒の足元に目を留めるところで、二人の距離が分かる。
想いを差し出すのが怖い人に向いている
- 好きな人に何かしてあげたいのに、迷惑になる気がして止まってしまう
- まっすぐで一途な片思いの話を、時間をかけて聴きたい
- 切なさを正面から受け止める覚悟で、長編に浸りたい
向いていないのは、軽い気持ちで聴ける恋愛小説を探している人。青緒の病は物語の中心にあり、痛みの描写から目をそらさない一冊だ。
近い気分の一冊
同じ宇山佳佑の『風読みの彼女』も、言葉にする前の気持ちが相手に届いてしまう怖さを描いた話だった。あちらは気持ちを見抜かれる怖さ、こちらは気持ちが相手を傷つける怖さ。並べて聴くと、好きという気持ちの扱いにくさが、別の角度から見えてくる。『風読みの彼女』オーディブル感想
今夜から歩橙の恋を聴くには
作品ページを開いて「聴き放題で聴く」と出ていれば、追加の支払いなしでその場で再生できる。対象は入れ替わるので、開いたときの表示だけ見てほしい。『恋に焦がれたブルー』のページを開く
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今夜は、歩橙が一足目の靴を思い描くところまででいい。飲み込んできた誰かへの言葉を、少しだけ胸の中で温めながら聴いてみてほしい。

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