『そして、バトンは渡された』オーディブル感想|家族を思う夜に

血のつながりだけが家族じゃないと思う夜

家族と聞いて、思い浮かべる顔がひとつではない人がいる。血のつながりと、一緒に過ごした時間の長さは、必ずしも一致しない。

それを人に説明するのは難しい。「本当の親じゃないから」と言われることもあれば、「血がつながっているんだから当然」と言われることもある。どちらも、自分の実感とは少しずれている。ずれを説明する言葉がないから、そのまま黙って抱えることになる。

瀬尾まいこの『そして、バトンは渡された』を聴くと、その説明できなさに言葉が与えられる。幼くして母を亡くし、父の再婚を重ねながら育った優子は、血のつながらない親たちからそれぞれの愛情を受け取って大人になる。そして、自分自身が誰かの隣に立つ番が来る。家族の形は入れ替わっても、注がれた愛情は消えない。過大な感動を煽る話ではなく、その静かな事実を差し出してくる。

再生時間は11時間52分。長いが、優子が新しい親と出会うたびに区切りがあるので、一晩に一章ずつでも十分に進む。

目次

どんな話か

幼い頃に母を亡くした優子は、父の再婚、そして父自身の海外赴任をきっかけに、血のつながらない親たちの間を渡り歩くことになる。高校生の今は、自分とわずか二十歳しか離れていない「父」と暮らしている。出会う家族それぞれに大切に育てられながら、優子は大人になっていく。

声で聴くとどう変わるか

語りは島田奈歩。優子の視点で進む物語だが、境遇の重さに反して声のトーンは穏やかで軽い。この軽さが、作品の狙いと合っている。優子自身が自分の境遇を悲観していないからだ。深刻に読まれていたら、この物語の温度は変わっていたと思う。

複数の親が入れ替わり登場するが、それぞれの話し方の癖が丁寧に演じ分けられている。目で読むときは名前で判別する部分を、耳では声の質感で先に判別することになる。誰が優子をどう扱ったか、記憶に残りやすい。

どの場面で引き込まれたか

手が止まったのは、優子が新しい親のもとに移る場面だ。悲壮感はなく、淡々と生活が続いていく。この淡々さの中に、大人たちが自分の人生の一部を割いて優子に注いだ愛情が透けて見える。

誰かに育てられるということは、当たり前ではない。この作品は、その当たり前でなさを、声高に主張せずに積み重ねていく。読み終えたとき、自分を育てた人たちの顔を思い出す人は多いはずだ。

もうひとつ、優子が誰かを恨む場面がほとんど出てこないことも印象に残る。境遇だけを見れば同情されて当然なのに、本人はそこに留まらない。悲劇として消費されることを、物語自体が拒んでいるように感じた。恵まれない子として憐れまれるのではなく、たくさんの人に育てられた一人の大人として描かれている。

いま聴くなら『そして、バトンは渡された』から。最初の親との別れの場面で、この物語の温度が分かる。

こんな人に向いている

  • 血のつながりだけが家族の定義だとは思っていない
  • 自分を育てた人が一人とは限らない
  • 長い物語を、区切りながら聴き進めたい

向いていないのは、波乱を求める人。優子を取り巻く大人たちは皆おおむね善良で、大きな対立は起きない。その穏やかさを、緊張感が足りないと感じる夜もあるかもしれない。

近い気分の一冊

家族というテーマで続けるなら、凪良ゆうの『汝、星のごとく』へ。あちらは家族と恋愛が絡み合いながら、自分の人生を誰かに明け渡してきた自覚に辿り着く話だ。育てる側と、育てられる側。視点を変えて並べると、家族という言葉の重さが違って見える。『汝、星のごとく』オーディブル感想

今夜の気分がまだ定まらないなら、オーディブルで聴ける恋愛小説おすすめ6選 から入ってほしい。気分から逆に引ける形で並べてある。

今夜から聴くには

作品ページを開くと、いま聴き放題の対象なら「聴き放題で聴く」と表示される。その場合は追加の支払いなしでそのまま再生できる。対象は入れ替わるので、表示だけ見てほしい。『そして、バトンは渡された』のページを開く

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今夜は最初の親との別れまででいい。そこから先、優子がどう育っていくかを、自分を育てた人たちを思い浮かべながら聴くことになる。

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