『ぼくは明日、きみと恋する』オーディブル感想|やり直す夜に

同じ一日をやり直しても、好きという気持ちだけは昨日より強くなっていく夜

もし今日をもう一度やり直せるなら、何を変えるだろうと考える夜がある。言えなかった一言、送れなかったメッセージ。昨日と同じ今日が来たら、今度こそ言えるだろうか。

厄介なのは、やり直せたとしても言える保証はないことだ。勇気は日付が変わるだけでは湧いてこない。何度でもやり直せるとしたら、それは救いなのか、それとも同じ失敗を数える作業に変わるだけなのか。答えの出ない想像を、一人で繰り返している。

藤川巴の『ぼくは明日、きみと恋する』は、その想像を実際にやってのける物語だ。幼馴染の颯汰に想いを告げるため、明日花はタイムトラベルを繰り返す。聴き終えても、同じ一日を繰り返すことが解決になるとは限らないと分かる。ただ、繰り返すたびに「昨日よりもっと好きだ」という気持ちだけは、確かに積み重なっていく。

再生時間は47分。今夜、寝る前の少しの時間で聴き終えられる長さだ。

目次

どんな話か

幼馴染の颯汰が、開発中の時間旅行機を試すキャンペーンに当選する。「今日をやり直してみない?」という誘いから、明日花は颯汰への想いを告げようと同じ一日を何度も繰り返すことになる。けれど二人を待っていたのは、思いがけない出来事だった。

声で聴くとどう変わるか

ナレーターは小岩井ことり。明日花の一人称で進む物語なので、同じ場面を繰り返すたびの気持ちの揺れが、声の温度としてそのまま伝わってくる。文字なら「もう一度」の一言で片付く場面が、声で聴くと本当に何度も同じ台詞を重ねているように感じられ、彼女がどれだけ真剣にこの想いに向き合っているかが分かる。

47分という長さは、人気声優が朗読する特別編としてちょうどいい密度だ。原作小説の一部を抄訳した特別編なので、恋心が動き出す瞬間だけに絞って聴ける。長い作品の前に、まずオーディオブックを1本試してみたい人にも向いている。

繰り返すたびに気持ちが変わる場面

手が止まったのは、同じ一日をやり直しているはずなのに、明日花の颯汰への言葉が少しずつ変わっていく場面だった。状況は同じでも、彼女の中の想いは日を追うごとに更新されている。繰り返しは同じことの反復ではなく、気持ちを重ねていく時間なのだと気づかされる。

颯汰の側の反応も、聴くたびに少しずつ違って聞こえてくる。台詞そのものは変わらないのに、明日花の想いの強さが変わることで、同じやり取りの意味が変わって聴こえる。ここが、この作品でいちばん耳を澄ませたい部分だ。

いま聴くなら『ぼくは明日、きみと恋する』から。47分、一気に聴き終えられる。

こんな人に向いている

  • 言えなかった一言を、やり直せたらと想像したことがある
  • 短いオーディオブックをまず1本試してみたい
  • 幼馴染への片思いという設定が好き

向いていないのは、長編でじっくり関係が育っていく過程を聴きたい人。この作品は特別編で、原作の一部を抄訳した短い尺にまとめられている。物足りなさを感じたら、原作小説のほうに手を伸ばしてほしい。

原作は小説投稿サイト発の人気作で、著者自身が本作のために抄訳を手がけている。原作を知らなくても置いていかれることはないが、聴き終えたあとに原作へ戻ると、明日花の繰り返した一日一日の重みが、また違って見えてくるはずだ。

近い気分の一冊

会えない時間の重さを扱った作品なら、ビートたけしの『アナログ』が近い。あちらは連絡先も知らないまま会う約束だけを重ねる関係で、確かめる手段がないぶん相手への想像だけが募っていく。繰り返す時間の中で想いが強くなっていくこちらと、確かめられない時間の中で想いが募っていくあちら。同じ「見えない相手への恋心」の育ち方を、違う角度から描いている。『アナログ』オーディブル感想

言えない想いを別の形で運ぶ話なら、小桜すずの『明日をくれた君に、光のラブレターを』も近い。同じく短い特別編で、親友の彼氏に片思いする少女が、顔も知らない相手と文通を始める。34分で聴き終わる。『明日をくれた君に、光のラブレターを』オーディブル感想

今夜の気分がまだ定まらないなら、オーディブルで聴ける恋愛小説おすすめ6選 から入ってほしい。気分から逆に引ける形で並べてある。

今夜から聴くには

作品ページを開くと、いま聴き放題の対象なら「聴き放題で聴く」と表示される。その場合は追加の支払いなしでそのまま再生できる。対象は入れ替わるので、表示だけ見てほしい。『ぼくは明日、きみと恋する』のページを開く

Audible を使うのが初めてなら、最初の30日間は無料で試せる(対象は執筆時点)。Audible の無料体験を見る

今夜は47分だけでいい。明日花が繰り返す一日の、その一つに付き合ってみてほしい。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメント一覧 (1件)

コメントする

目次