好きになってはいけない相手を、好きになってしまった。しかもその相手は、いちばん近い友達の恋人だ。誰にも言えないまま、毎日を普通の顔で過ごしている。
この気持ちの厄介なところは、置き場所がないことだ。友達には絶対に言えない。本人にはもっと言えない。ほかの誰かに話せば、友達の恋人を好きな人、という印だけが残る。だから黙っているうちに、自分の本音を誰にも見せない癖がついていく。
小桜すずの『明日をくれた君に、光のラブレターを』は、そういう場所にいる人のところへ、顔の見えない手紙が届く話だ。聴き終えても、叶わない片思いが叶うわけではない。ただ、顔を知らない相手になら本音を書けてしまう、という感覚に名前がつく。黙ることしかできなかった気持ちにも、出口の形があると分かる。
再生時間は34分。今夜、布団に入ってから聴き始めても、日付が変わる前に聴き終わる。
どんな話か
親友の彼氏に、叶わない片思いをしている美月。ある日、図書室で自分に宛てたラブレターを見つける。差出人について分かるのは「佐藤」という名前だけで、クラスも顔も知らないまま、二人の文通が始まる。
声で聴くとどう変わるか
ナレーターは声優の榎木淳弥。ひとりの声で物語を運ぶ朗読なので、手紙の言葉と、それを受け取る側の揺れが、同じ声の中を行き来する。文字で読めば、手紙と地の文は紙面の上で区切られる。声で聴くとその境目がほどけて、書いた人と読んだ人の距離が近く感じられる。
34分は、原作小説の第一章から第二章を抄訳した特別編の長さだ。文通が始まり、気持ちが動き出すところまでを一息に聴ける。歯を磨いて、部屋の明かりを落として、再生する。それくらいの単位で終わる。
差出人の分からない手紙を待つ時間に引き込まれた
手が止まったのは、美月が図書室で自分宛ての手紙を見つける場面だった。差出人は名前しか分からない。それでも、誰かが自分を見ていたという事実だけで、止まっていた毎日が少し動き出す。
片思いの話でありながら、この作品が描くのは「好きな人」との時間ではない。「本音を書ける相手」との時間だ。親友の彼氏への気持ちは誰にも言えない。けれど顔を知らない佐藤くんへの返事なら書けてしまう。この逆転が、ずっと黙ってきた人にはよく効く。
手紙というのは、返事が来るまで相手の気配だけを抱えて待つ時間でもある。その待ち時間の落ち着かなさまで、34分の中にきちんと収められている。
いま聴くなら『明日をくれた君に、光のラブレターを』から。最初の手紙が届くまで、5分もかからない。
こんな人に向いている
- 友達の恋人を好きになってしまったことがある
- 顔を合わせるより、手紙やメッセージのほうが本音を言える
- 30分ほどで終わるオーディオブックを、まず1本試したい
向いていないのは、物語の結末まで一気に知りたい人。本作は原作の前半を抄訳した特別編で、文通の行方は途中で手渡される。続きが気になったら、原作小説へ進んでほしい。
原作は魔法のiらんど大賞2020の小説大賞・青春小説部門賞の受賞作。短い特別編だが、入口としての密度は十分ある。
近い気分の一冊
同じく短い特別編で続けるなら、藤川巴の『ぼくは明日、きみと恋する』へ。あちらは幼馴染に想いを告げるために同じ一日を繰り返す話で、こちらは顔の見えない相手に本音を書く話だ。言えない気持ちを、時間と手紙という別々の道具で運んでいる。どちらも1時間かからずに聴き終わる。『ぼくは明日、きみと恋する』オーディブル感想
今夜の気分がまだ定まらないなら、オーディブルで聴ける恋愛小説おすすめ6選 から入ってほしい。気分から逆に引ける形で並べてある。
今夜から聴くには
作品ページを開くと、いま聴き放題の対象なら「聴き放題で聴く」と表示される。その場合は追加の支払いなしでそのまま再生できる。対象は入れ替わるので、表示だけ見てほしい。『明日をくれた君に、光のラブレターを』のページを開く
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今夜は34分だけでいい。美月が図書室で手紙を開く、その瞬間に立ち会ってみてほしい。

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