『アナログ』オーディブル感想|すぐ繋がれるのに会えない夜に

いつでも連絡できるのに会えていない相手がいる夜

連絡先は知っている。メッセージを送れば数分で返ってくる。それなのに、もう半年会っていない相手がいる。会えない理由はなく、会う理由もない。いつでも会えると思っているうちに、会わないことが標準になった。

つながる手段が増えるほど、関係が薄くなることがある。これは説明しにくい。連絡を取っているのだから疎遠ではないし、困ってもいない。ただ、いつでも取り出せるものは、たいてい取り出さないまま古くなる。その感覚に名前がない。

ビートたけしの『アナログ』は、その逆をやってみせる。連絡先を知らない二人が、会う約束だけで関係を続ける。読み終えても連絡の頻度は変わらない。ただ、会うという行為にどれだけの重さがあったかを思い出す。

4時間26分。このブログで扱った中でいちばん短い。通勤の往復なら2日、休日の午後ひとつで聴き終えられる。

目次

どんな話か

デザインの仕事をする男が、ある店で女性と出会う。二人は連絡先を交換せず、素性も詳しく尋ねないまま、会う約束だけを重ねていく。デジタルでつながることが当たり前になった世界で、その関係だけが手作業のように進む。

声で聴くとどう変わるか

語りは白川周作。淡々としていて、感情を作りにいかない。この作品にはそれが要る。物語の骨格自体はとても静かで、劇的な出来事がほとんど起きないからだ。声が先に盛り上がってしまうと、話が持たない。

効いてくるのは、会っていない期間の描写だ。主人公は相手のことを考えているが、確認する手段がない。連絡が取れないので、想像するしかない。この「調べられない」という状態が、現代の読者にはもう不自然に感じられる。その不自然さを、声はごまかさずに運んでくる。

もう一つ、この小説は会話が多い。しかも軽口が挟まる。書き手が長く喋る仕事をしてきた人なので、台詞のリズムが独特で、文字で読むと少しぶっきらぼうに見える。それが声になると、間の取り方として成立する。この作品は朗読のほうが読みやすい部類だと思う。

4時間26分。区切りのいい長さなので、一度で聴き通すのが向いている。途中で日をまたぐと、会えない期間の焦れったさが薄まってしまう。

どの場面で引き込まれたか

手が止まるのは、主人公が相手を探そうと思えば探せる、と気づく場面だ。彼は探さない。探せば関係の性質が変わることを分かっている。

これは我慢の話ではなく、選択の話として書かれている。調べない、聞かない、踏み込まない。そのぶん相手の輪郭は曖昧なままだが、曖昧なままにしておくことでしか保てないものがある。読んでいるあいだ、自分の連絡先一覧のことを考えてしまう。

作者の名前から想像する乱暴さは、この小説にはない。暴力も皮肉もほとんど出てこない。ただ静かに、会うことの重さだけを積んでいく。予想を裏切られるという意味でも、聴く価値がある。

いま聴くなら『アナログ』から。最初の出会いの場面で、この静けさが分かる。

こんな人に向いている

  • いつでも連絡できるのに、会わなくなった相手がいる
  • 短い作品を一度で聴き通したい
  • 派手な展開がなくても構わない

向いていないのは、設定に現代的なリアリティを求める人。連絡先を交換しないという前提そのものに、無理があると感じる人はいると思う。そこを受け入れられるかどうかで、この作品の評価は割れる。

近い気分の一冊

会えない時間の描き方が効いたなら、尾形真理子の『試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。』へ。あちらは連作短編で、一編ずつ別の女性が自分の強がりと向き合う。こちらが「踏み込まない選択」の話だとすれば、あちらは「踏み込めなかった人」の話だ。どちらも4時間台で聴ける。『試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。』オーディブル感想

今夜の気分がまだ定まらないなら、オーディブルで聴ける恋愛小説おすすめ6選 から入ってほしい。気分から逆に引ける形で並べてある。

今夜から聴くには

作品ページを開くと、いま聴き放題の対象なら「聴き放題で聴く」と表示される。その場合は追加の支払いなしでそのまま再生できる。対象は入れ替わるので、表示だけ見てほしい。『アナログ』のページを開く

Audible を使うのが初めてなら、最初の30日間は無料で試せる(対象は執筆時点)。Audible の無料体験を見る

今夜は最初の30分だけでいい。二人が名前も聞かずに別れるところで、続きが気になる。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメント一覧 (1件)

コメントする

目次