『光のとこにいてね』オーディブル感想|離れた友を想う夜に

離れた友人を思い出す夜

昔はほとんど毎日のように話していた相手がいる。今はもう、会う予定も立てていない。喧嘩をしたわけではない。住む場所と生活のリズムが少しずつ離れていっただけだ。

この距離感には名前がない。絶交でも疎遠でもなく、「今はそういう時期」というだけの説明になる。それでも、ふとした瞬間にその人のことだけを考えてしまう夜がある。誰かに話しても「元気なら十分じゃない」で終わってしまう話だ。

一穂ミチの『光のとこにいてね』は、その名前のない距離感に輪郭を与える。古い団地で出会った二人の女性が、住む世界を違えながらも四半世紀にわたって互いを手放せずにいる物語だ。聴き終えても、その人にすぐ連絡を取りたくなるわけではない。ただ、離れていることと忘れることは別だと分かる。

全12時間44分。長い作品だが、今夜必要なのは団地で二人が出会う最初の場面だけでいい。そこまで聴けば、続きは明日でも一週間後でも構わない。

目次

どんな話か

古い団地に暮らす対照的な二人の少女が出会う。育った環境も性格もまるで違うのに、互いにしか埋められない場所があると気づいていく。大人になり住む世界が離れてからも、その結びつきは形を変えながら続いていく。

声で聴くとどう変わるか

語りは松本沙羅、一人二役で二人の少女を演じ分ける。声の高さや間の取り方に差はあるが、最初のうちは意識して聴かないと、今どちらの視点かを見失う瞬間がある。ただ、聴き進めるうちにその近さこそがこの物語に合っていると分かってくる。二人はもともと、はっきり線を引ける関係として書かれていない。

効いてくるのは、二人が離れて暮らす時期の描写だ。声の主が変わらないまま場面だけが移るので、会っていない年月の長さより、ずっと同じ場所で待っているような感覚のほうが強く残る。文字で読むと単なる時間経過に見える部分が、耳で聴くと途切れていない関係として届く。

12時間44分は決して短くない。1日30分ずつ2週間ほどかけるのが合っている。二人の年月の積み重ねを、自分の生活のなかで少しずつ追っていく聴き方が、この作品にはいちばん近い。

どの場面で引き込まれたか

手が止まったのは、大きな事件が起きる場面ではなく、二人が久しぶりに言葉を交わす何気ないやり取りだった。特別なことは何も起きていない。それなのに、間が空いていたはずの関係が、その一言で元の形に戻る。

離れていた年月をわざわざ埋め合わせようとしない。埋め合わせなくても続く関係があると、この作品は静かに言い切る。連絡を取っていない人のことを考えている自分を、責めなくていいと思えた場面だった。

もう一つ挙げるなら、二人がそれぞれ別の生活を築いていく場面だ。片方だけが相手を待ち続けているわけではない。互いに自分の人生を進めながら、それでも根っこの部分で繋がっている描き方に、友人という言葉の枠を超えた実感がある。

いま聴くなら『光のとこにいてね』から。団地で二人が出会う場面までで、この物語の距離感がつかめる。

こんな人に向いている

  • 昔ほど頻繁に会えなくなった相手が思い浮かぶ
  • 長い時間の積み重ねを、じっくり聴いていきたい
  • 二人の関係を簡単な言葉で説明したくない

向いていないのは、関係性に分かりやすい名前がつくことを求める人。この物語は最後まで、二人の関係をひとつの言葉には収めない。そこにもどかしさを感じる人はいると思う。

近い気分の一冊

選ばなかった時間の重さという意味では、平野啓一郎の『マチネの終わりに』も近い場所にある。あちらは数年単位ですれ違う男女の話だが、会えない時間の長さがそのまま関係の深さに変わっていく構造は同じだ。『マチネの終わりに』オーディブル感想

今夜の気分がまだ定まらないなら、オーディブルで聴ける恋愛小説おすすめ6選 から入ってほしい。気分から逆に引ける形で並べてある。

今夜から聴くには

作品ページを開くと、いま聴き放題の対象なら「聴き放題で聴く」と表示される。その場合は追加の支払いなしでそのまま再生できる。対象は入れ替わるので、表示だけ見てほしい。『光のとこにいてね』のページを開く

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今夜は団地の場面まででいい。二人が初めて言葉を交わすところで、たぶん続きが気になっている。

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