『君の名は。』オーディブル感想|まだ見ぬ誰かを探す夜に

会ったこともない誰かを探している気がする夜

会ったこともない人のことを、なぜか知っている気がすることがある。夢の中で誰かと話していた感触だけが残り、目が覚めると名前も顔も思い出せない。

この感覚には説明がつかない。前世とか運命とか、そういう言葉を使った瞬間に安っぽくなる気がして、誰にも言わないまま忘れようとする。忘れようとするほど、かえって気になり続ける。誰かに話しても、夢の話として流されて終わる。

新海誠の『小説 君の名は。』は、その根拠のない予感を物語の中心に据える。名前も顔も知らないまま惹かれ合う二人の話だが、聴き終えると、説明できない予感を否定しなくていいのだと分かる。全部が言葉にできなくても、感じたことは残っていい。

全6時間33分。長い作品ではない。通勤の往復なら4日、休日の半日でも聴き終えられる長さだ。

目次

どんな話か

山深い田舎町に暮らす女子高校生と、東京で暮らす男子高校生。夢の中で互いの体に入れ替わっていることに気づいた二人は、出会うことのないまま惹かれ合っていく。少年と少女をめぐる奇跡の物語。

声で聴くとどう変わるか

語りは朴璐美。一人で少女と少年、両方の主人公を演じ分ける。入れ替わりが物語の仕掛けそのものなので、声だけでどちらの中身が話しているかを聴き取れるかどうかが、この作品を耳で楽しめるかの分かれ目になる。演技力に振れ幅があり、聴き進めるうちに自然と聴き分けられるようになる。

方言の監修に映画と同じスタッフを起用しているという情報も公開されており、田舎町の場面の言葉の響きにこだわりが感じられる。文字で読むと均一に見える台詞回しが、耳で聴くと土地の空気そのものを運んでくる。

6時間33分と短めなので、一気に聴き通しても迷わない。入れ替わりのテンポが速い作品なので、間を空けすぎるとどちらの視点だったか忘れてしまう。休日の午前と午後で分けて聴くくらいが、ちょうどいい区切りになる。

どの場面で引き込まれたか

手が止まったのは、二人が入れ替わりの証拠として、互いの体にメモを書き残していく場面だった。直接会えないまま、それでも相手に何かを伝えようとする手つきが、声になるとより切実に響く。

会ったことのない相手を思うとき、人はこんなふうに手探りで痕跡を残すのかもしれないと感じた。届くかどうか分からないまま何かを書き残す行為自体に、意味があると思わせてくれる場面だった。

もう一つは、二人が互いの生活の細部を少しずつ知っていく場面だ。相手の一日をなぞるうち、会ったこともない町の匂いや音まで想像できるようになる。声で聴くと、その積み重ねが実際に体験した記憶のように感じられてくる。

いま聴くなら『小説 君の名は。』から。最初の入れ替わりに気づく場面までで、この物語の温度が分かる。

こんな人に向いている

  • 会ったこともない誰かを、なぜか思い出す夜がある
  • 短い作品を休日に一気に聴き通したい
  • 映画を観たことがあっても、朗読で改めて味わいたい

向いていないのは、映画版の声を基準にして聴きたい人。ナレーションはあくまで朗読としての演じ分けであり、映画のキャストとは別物として聴く必要がある。映像の記憶を一度脇に置けるかどうかで、聴こえ方はだいぶ変わる。

近い気分の一冊

記憶と時間が絡む物語をもう一つ挙げるなら、佐藤正午の『月の満ち欠け』が近い。あちらは生まれ変わりを軸に、会えない人ともう一度出会う話だ。会う前から惹かれ合うか、会ったあとに再び惹かれ合うかの違いはあるが、覚えていることの尊さを描く点は同じだ。『月の満ち欠け』オーディブル感想

今夜の気分がまだ定まらないなら、オーディブルで聴ける恋愛小説おすすめ6選 から入ってほしい。気分から逆に引ける形で並べてある。

今夜から聴くには

作品ページを開くと、いま聴き放題の対象なら「聴き放題で聴く」と表示される。その場合は追加の支払いなしでそのまま再生できる。対象は入れ替わるので、表示だけ見てほしい。『小説 君の名は。』のページを開く

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今夜は最初の入れ替わりの場面まででいい。目覚めたときの戸惑いに、たぶん覚えがある。

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