結婚に興味がないと言うと、たいてい「そのうち縁があるよ」で流される。本人はそれで納得しているわけではないのに、話を打ち切るための便利な返事として扱われる。だから次第に、自分からその話題を出さなくなる。
厄介なのは、興味がないと言い切っているわりに、心のどこかでまだ諦めきれていないことだ。婚活パーティーの話を聞けば少し耳が動くし、誰かの結婚報告に複雑な感情が残る。それでも「自分には関係ない」を盾にしていれば、傷つかずに済む。
宮島未奈の『婚活マエストロ』を聴くと、この盾がゆっくり崩れていく様子に付き合うことになる。婚活に一切興味のなかった40歳のライター・猪名川健人は、取材先で出会った婚活マエストロ・鏡原奈緒子の進行に惹かれ、気づけば自分の結婚について考え始めている。聴き終えても答えは出ないが、関係ないと決めつけていたことへの向き合い方は変わる。
再生時間は6時間28分。今夜必要なのは、猪名川が鏡原の進行するパーティーに足を踏み入れる最初の場面だけでいい。そこから先、彼の態度がどう変わっていくかが分かる。
どんな話か
40歳のフリーライター・猪名川健人は、婚活事業の紹介記事を書く仕事を引き受ける。手作り感あふれる地味なパーティーに現れたのは、婚活業界で名を知らぬ者はいない〈婚活マエストロ〉鏡原奈緒子。その進行を手伝ううちに、猪名川自身も結婚について考えるようになる。
声で聴くとどう変わるか
語りは吉野貴大。三文ライターを自称する猪名川の一人称は、皮肉っぽい軽さで進む。婚活パーティーという場を斜に構えて見ていた彼の態度が、鏡原と関わるうちに少しずつ変わっていく過程が、声のトーンの変化としてそのまま伝わってくる。
婚活パーティーの司会進行の場面は、テンポよく読まれる。参加者を乗せていく鏡原の手際が、文字で読むより実際に耳で聞くほうが説得力を持つ。彼女がなぜ〈マエストロ〉と呼ばれるのか、理屈より先に体感で分かる作りになっている。
6時間28分。通勤の往復で3日ほどのペースで聴き終えられる長さだ。一気に聴いても軽やかに進むので、休日にまとめて聴くのにも向いている。
どの場面で引き込まれたか
手が止まったのは、猪名川が「真面目に婚活するのも悪くないかもしれない」と思い始める場面だ。結婚に興味がないと決めていたはずの人間が、その決めつけを自分で疑い始める瞬間の描き方に、押しつけがましさがない。
この小説がうまいのは、鏡原自身の事情を最初から明かさないところだ。なぜ彼女がこの仕事をしているのか、〈マエストロ〉とは何なのか、謎を残したまま話が進む。答えが気になって、次の章に手が伸びる。
いま聴くなら『婚活マエストロ』から。最初のパーティーの場面で、この作品の空気が分かる。
こんな人に向いている
- 結婚や恋愛は自分には関係ないと決めてしまっている
- 重くなりすぎない婚活小説を探している
- 通勤の往復で3日ほどのペースで聴き切りたい
向いていないのは、婚活の内側を厳しく描いた話を求める人。この作品はコミカルな筆致が中心で、業界の暗い部分を暴くような話ではない。
近い気分の一冊
人を条件で選んできたと気づく話なら、辻村深月の『傲慢と善良』も近い。あちらは婚活アプリでの出会いから始まり、条件で人を見てきた自分に気づかされる話だ。条件で選ぶことに慣れた側と、結婚そのものから距離を置いていた側。どちらも、向き合ってこなかった部分に気づかされる点で重なる。『傲慢と善良』オーディブル感想
今夜の気分がまだ定まらないなら、オーディブルで聴ける恋愛小説おすすめ6選 から入ってほしい。気分から逆に引ける形で並べてある。
今夜から聴くには
作品ページを開くと、いま聴き放題の対象なら「聴き放題で聴く」と表示される。その場合は追加の支払いなしでそのまま再生できる。対象は入れ替わるので、表示だけ見てほしい。『婚活マエストロ』のページを開く
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今夜は最初のパーティーの場面まででいい。そこから先、猪名川がどこまで変わっていくかを聴くことになる。

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